全身には傷や痣だらけ。
しかし、失われることのない生への渇望により大胆不敵にゾロは笑みを浮かべる。
9日間の磔にされているゾロの登場シーンである。
海軍大佐“斧手の”モーガンの息子ヘルメッポが飼っている狼を斬ったという罪で投獄されている。
モーガンは自らへの「忠誠度」(この場合はいかに貢げるか)によって人を判断している。
気に入らない動きがあればいつでも切り捨てるために、民衆や部下の海軍兵たちは常に恐怖の中での生活を強いられていた。
ゾロに対する刑が執行されるまで期間があることから、ヘルメッポが独断で兵を動かしたのか、直接的な被害ではないので軽くみているのか、もしくは、見せしめの意味があるのかは定かではないが、いずれにせよ生命の危機にいる状況には変わらない。
ヘルメッポとの約束を愚直に信じ、一ヶ月間耐えようとしているが、普通の人間ならまず命はない。
むしろ9日間ももっている方がどうかしている。
そのような状況で、おにぎりを持ってきたリカに早くどこかに行くように(逃げるように)促すのである。
リカはヘルメッポが飼っていた狼に襲われているところをゾロが助けた少女である。
どうしてもゾロにお礼がしたかったのだろう。
周りをよく見て善悪の判断はついている。
危険なこともよくわかっている。
その上で、ゾロが空腹であることを想像し、初めて自分で作ったおにぎりを食べてもらおうと思って行動したのである。
結局、その行動がヘルメッポに見つかり、おにぎりは踏みつけられ、磔場の外に文字通り放り出されてしまう。
ゾロは彼女の勇気と感謝に礼を持って応えるのである。
どろどろのおにぎり。
完全につぶれてしまい原形を全くとどめていないおにぎり。
落ちている分を全部、涙と冷や汗を浮かべ、バリバリと音をたてながら腹に入れるのである。
そしてルフィに伝言を頼むのだ。
「うまかった」
「ごちそうさまでした」
・・・ってよ
尾田栄一郎『
ONEPIECE 巻一 ROMANCE DAWNー冒険の夜明けー』 集英社(ジャンプコミックス) 1997.12 p.100

