コミックス『ONEPIECE』の冒頭はナレーションで始まる。
そして当時、唯一の呼称で呼ばれた男はローグタウンの死刑台でこう語り、不敵に笑う。
俺の財宝か?
欲しけりゃくれてやるぜ・・・
探してみろ
この世のすべてをそこに置いてきた
尾田栄一郎『
ONEPIECE 巻一 ROMANCE DAWNー冒険の夜明けー』 集英社(ジャンプコミックス) 1997.12 p.5
この時点で、正直描写に迷う。
ロジャーは上記の台詞を呟いたのか、叫んだのか、呼び掛けたのか。
どのような口調で、どのような心情で放ったのか。
小説ならば、作者の描写が入る箇所だろう。
この点はコミックスの最大の特徴である。
登場したキャラクターの語り口がわからない。
わからないから想像を掻き立てられる。
アニメ化され、声に色がついた今でもこの台詞への興味は尽きない。
「世は大海賊時代を迎える」(尾田` 1997.12.p.5)との続きより想像するに、少なくともこの言葉自体は民衆に届いたということになる。
ではこの言葉、一体誰が聞いた言葉なのか。
“海賊王”・・・この時点での世界で唯一そう称された男である。
良くも悪くも民衆に影響力を持つほどのカリスマであることは想像に難くない。
カリスマの言葉というのは例えばそれが、独白のように呟いた言葉でもキャッチする者が現れる可能性がある。
逆に死に際して、笑顔を見せ民衆を焚き付けるような豪放磊落な性格の持ち主であれば、その声はよく通り本当に死刑台の上から観衆に届いたことも考えられるだろう。
ちなみに11巻でのルフィが叫んでいることは、下にいる観衆たちの反応からわかるが、
ロジャーに向けられた喚声は、ロジャーの言葉に対してか執行された刑に関してかの判断はできないのではないか。
いずれにせよ、このロジャーの行動により、言葉により、人々が動きだし、時代が動き出していった事が『ONEPIECE』という物語の始まりである。
ロジャーは人々に様々な形で、つながりを残して死んでいく。
そのつながりの始点(ひょっとしたらロジャー自体もつながりの途中であるかもしれないが。)であるロジャーの言葉がどのような言葉だったのか・・・実に興味を惹かれる物語の始まりである。

